愛川歯科技工所 代表 歯科技工士 田島雅夫さん
「歯のかぶせ物(セラミック矯正のかぶせ物)、どういう人が作っているのかしら?」
セラミック矯正をした患者さんの喜びようを見て、さらにその謎を知りたくなり、実際患者さんの口に入っているものを作った歯科技工士、田島さんの取材をさせていただきました!
目次
- 「セラミック矯正のかぶせ物」を作っている人に会いたくて
- 「あと20年幸せに食べられれば、それが一番いい」
- 自然すぎて、会った人が最初気がつかなかった
- 何色も何色も色を盛っていくんです
- 削り1つ、バーの当て方ひとつで分かります
- 年配の方にとっては、いい治療法だと思います
- 神奈川県歯科技工士会の会長です
- 中澤デンタルでぜひお会いしましょう!

「セラミック矯正のかぶせ物」を作っている人に会いたくて

出来上がって患者さんのお口の中に入っているセラミック矯正のかぶせ物、見ました!
インタビューもさせていただきました。
セラミック矯正の「ワックス模型」(上記画像)はじめて見たのですが、こんな3Dスキャナーが全盛の時代に逆に説得力があると思ったんです。
患者さん来院時に立ち合いもされるとのこと、お話を聞きたく会いに来ました!
先生の評価も高かったです、こだわって作っていると。

そうですか、ありがとうございます!
患者さんが喜んでくれて頂き、嬉しいですね!


中澤デンタルさんとの取引のきっかけは?
近藤義歯研究所という技工所さんに紹介してもらいました。
近藤さんと一緒に、平塚と厚木にある歯科衛生士学校に教えに行ってた時に紹介してもらったのが縁ですね。


このワックスアップ(上記写真右側の模型)のポイントは?
まず先生も「インフォームドコンセント(説明と同意)」したいんですよね。
なので、患者さんに説明しやすいように作ります。
中澤先生から来た石膏模型は、必ずこうやってシリコンで「複模型(ふくもけい)」を作ります。



ふくもけい?
元の模型を、精密に型取りできる「シリコン」で型を起こして(上記写真)、石膏模型のコピーを作ります。
そして、元の模型は残るようにして、最後アジャストが出来るようにします。
歯は横幅がおよそ0.9とか0.8ミリなんです。
そうすると、歯が入りきらなさそうだというのが分かるので、どこを抜くのか、こっちは歯の幅を狭くして短くすれば入る、などの設計をします。

「あと20年幸せに食べられれば、それが一番いい」

なるほど。最終的なイメージはどう起こすんですか?
キレイな歯をイメージして、サイズを合わせて、何本入ればいいか考えます。
コピーした模型を削るので、先生もどれくらい歯を削ればいいか分かります。



(コピーしたベージュの石膏模型の一部を削っているのを見る)結構軟らかいんですね。
ハイ軟らかいです。
この模型があれば先生もどれくらい削ればいいか分かります。
先生に削ってほしい量をお知らせする意味もあります。
先生の黄色い模型(元の模型)があれば、元がどれくらいの形だったか分かるので、発音も考慮して作ります。


見た目だけじゃなくて、発音もなんですね!しかも元の歯の形も参考にしてくれるんですね!
自然になるように工夫しています。
舌側(ぜっそく:内側)に違和感があると、発音にすごく響いてきますから。
中澤先生が持っているマスターモデルをみながら、発音に影響が出ないように・・・歯並びがガタガタだった場合はむしろそれまでより発音しやすくなると思います。
ワックスアップ(グレーの部分)しても内側の歯はない方がいいなと思いますし、先生とも「ココは抜こうと思ってた」というような話になっていきます。
健康な歯を抜くというのは気になると思うのですが、先日の患者さんは「あと20年幸せに食べられれば、それが一番いい」と仰っていました。


自然すぎて、会った人が最初気がつかなかった

患者さんは、隣の歯が神経を抜いて色が変わってるので、そこが気になってたとのことでした。
入れてみないと分からない色合いをプロが見立ててくれるんですね。
歯のかぶせ物にグラデーションが付いてたなんて、驚きです。
自然すぎて、会った人が最初気がつかなかったと話していました。

セラミックの場合、グラデーションは付けますよ。
そこには確かに気を遣います、新庄みたいに真っ白のならないように気を遣っています。(笑)


グラデーションはどうやってつけるんですか?
色にこだわって、何層にも色を使います。


何色も何色も色を盛っていくんです
これ、大臼歯のブリッジなんです。
大臼歯のもとになる芯があって、これに盛っていくんですね。(左が元、右が盛ったもの)



そうやって作るんですね!
これも何色も何色も色を盛っていくんです。
青っぽいのは歯の先端の方の色で、茶色いのは歯の下の方の色。
フレーム(左)から色を付けていきます・・・フレームの真っ白色が浮き出てきちゃうんで、この時点で色を付けます。
ジルコニアの特性として光に乱反射するので、何色も盛って作るんです。



よくかぶせ物の透明感が云々、ということをいいますよね。
そういうのを作るのは難しいので、盛って作ります。
その上に何層も色を重ねるから出てくる色合いもあります。



下地が大事なのは化粧だけじゃないんですね。(笑)
どこの誰が作ったか分かって口の中に入れるってどれだけの安心感か・・。
ちなみに、立ち合いは患者さんのリクエストでするんですか?
僕のリクエストでもあるんですよ・・・腕を上げたいというか。
(患者さんの口元を)カメラでも撮るんですけれど、やっぱり自分の目で見ないと気が済まない。


私も作っている現場を見ないと気が済まなくて、取材に来ちゃいました。(笑)
患者さんは作っている人に会えれば細かいニュアンスまで伝えられるから、患者さんとしてもすごく嬉しいと思います。
仕事を一緒に初めてすぐに分かりましたが・・・先生と僕はやりたい仕事の感覚が似ているので、すべての場面で立ち合いをしなくても大丈夫です、阿吽の呼吸とでもいいますか。
でも、車で中澤デンタルは行けますので伺いますよ。

削り1つ、バーの当て方ひとつで分かります

先生とのコミュニケーションは?
取りやすいですね。
開業する前にいた医院さんでセラミックが多かったのは、すぐに分かりました。


先生は、セラミックの扱いに慣れている、ということですね。
数をこなしているな、というのはすぐ分かりました。
先生とああだこうだ言わなくても「あ、こういう感じで作ればいいんだな」というのがすぐに分かりました。
削り1つ、バーの当て方ひとつで分かります、審美の削り方しているなと。
これだけ6本の治療や型を取るのは大変だと思うんですけど、割と早い・・・患者さんの歯肉の回復は、あまり時間を掛けて治療していると遅くなります。
でも先生のやった患者さんはあっという間に歯肉も回復してくるので、スピードも速いと思うんですよね。


腕がいいので、傷の治りもいい!ということですね!
そうですそうです!


院長は、福岡の大学病院の口腔外科にいたそうです。
お互いが細かい経歴まで話すと野暮かな、と。(笑)
私こんなことやってたんですよ、といちいち話さないですね。



患者さんが本当にうれしそうだったんです・・・今まで羊羹を食べると歯型がギザギザだったのがキレイになって感激したと。
年取ると歯並びがガタガタになるというのは、矯正の先生からも聞いたことがあります。
何年もかけてやる歯の矯正ではなくて、2~3か月で出来るのは本当に良かったとお話ししていました。
歯のお掃除が圧倒的に楽になったのよね、ともお話ししていました。
年配の方にとっては、いい治療法だと思います
年配の方にとっては、いい治療法だと思います。
先生の削りしろ・・・この赤いラインが「マージン」というんですけれど、こういうのが回復するのに最適な位置にあります。



マージン(歯ぐきかぶせ物の「きわ」)、すごく細くないですか?
そんなことないですよ、審美だったらこれくらいでないと。
ラインをバッチリ出さないと、(歯の土台になるものを作るための)スキャナーが読み込まないんです。
石膏だと赤鉛筆でなぞると削れちゃいますから、芯の先を水にチョンチョンと付けて柔らかくして塗るんです、削れないように。


そこまで気を遣ってやるんですね!
シャーペンじゃダメなんですよ。
色鉛筆を軟らかくて、石膏に影響が出ないように・・・微々たることかもしれませんけどね。


ずっと口の中に入っているものなので、微々たることが大事ですよね。
そんなにこだわってやっているのだから、高い買い物ではないということが分かりました!
ありがとうございます!


歯医者はどこに行っても一緒じゃないんですね・・・どんな技工士さんか?が大事ですね。
中澤先生、全面バックアップしますよ!
当然、責任もあるので「田島です」と患者さんの前に立つと緊張します。
今まで歯科技工士が引っ込み過ぎていたかもしれませんね。

神奈川県歯科技工士会の会長です

神奈川県歯科技工士会の会長さんだそうで。
技工士会も結構大変なんですけれど(笑)、でも近藤さんや若い社長さんはポジティブなので。
誰かが前に出て行って、歯科技工について患者さんに知ってもらわないとならない。


どんな思いで技工士をやっています?
ドクターに合わせて仕事をします・・・どんなことをしたいか、技工物がキレイに入るような工夫をしたり、緩さ、正確さなど様々なことを鑑みて仕事をします。
技工士としては、30年ちょっとですかね・・・積み重ねた技術で、患者さんが満足してもらえるまでやります。
患者さんのため、先生のため、ですよ。


あのイチローもこれで出来たと思ったらダメ、もっともっと上というようなことを言ってました。
いいライバルがいるんだと思います、だからいつまもでも上を見ている感じです。


「技工士道」は、これからも続きますか?
それ以外考えられないですね。


中澤デンタルでぜひお会いしましょう!

イメージはスガシカオの「プロフェッショナル」が流れて来る、感じですか。(笑)
はい、それでお願いします。(笑)
歯科技工の世界もオープンな感じになって、もっと患者さんが笑顔になれば、自分たちもハッピーになれる、そういう雰囲気を作りたいですね。
ポジティブなプロフェッショナルの輪の中に身を置くことが大事で、そこにいるのが心地いいのです。
仲間で30年前くらいにオーストラリアに行った歯科技工士がいるんですよ。
「このセラミックがいいからお前も入れろ」と教えてくれて「入れてみようかな」と、一歩踏み出してから景色がどんどん変わっていきましたね。


素材ですか?
素材も含めたセラミックシステムです。


日本人の手先の器用さは、海外に行くとすごい重宝されるという話を聞いたことがあります。
入れ歯専門の技工士で「デンチュリスト(デンチャーは入れ歯の意)」という職業があると。
うちも「セラミスト」(セラミックのかぶせ物を作る人)ですね。
先ほどの患者さんも、色は気にいってくれましたね、
元の歯を生かすよう2トーンくらい明るくしたんです。
「これくらいの色合いを望んでいるんだな」と分かるので、患者さんと会うのは僕の保険でもあるんです。
「若々しく見せたい」など希望がある場合はちょい明るめにしたり、中に色を入れたりなんだりかんだりといろいろやっています。
光の当たり具合で全く違ってくるけど、中澤デンタルに行けば確認もできるのでぜひお会いしましょう!

取材後記
技工所の脇には渓谷が流れる、自然豊かな場所でした。
決して饒舌ではないのですが、一消費者としてその不器用さにむしろ安心しました。
どこまでいってもまだ足りない、まだ足りないと思って研鑽を重ねている職人気質なんだな~とひしひしと感じました。
自分の歯の技工物も作れるそうです。(笑)